と、届いてしまった・・・まさかこんなに焦らされるとは・・・

夏だというのに日が隠れてしまうとまだ寒い、そんな初夏の夕方。
風が冷ややかなのも気付かずに、ひたすら自転車をこいでいる影ひとつ。
眼はまっすぐ前を向いているのにも関わらず、そこに映っているのは夏前の夕日でも、家路へ急ぐ車でもない。

おうふっ・・・緊張してきた・・・ああぁぁぁ・・・

闘いも最終幕、長い長い凱旋の坂道。
最後の力を振り絞り、鞭をふるい、鉄の馬を走らせる。
それに応えるように、鉄の馬はきぃきぃと鳴きながらその背に乗せている夢みる乙女を彼女の城へ。

やばい、にやけそう。普通に、普通に・・・

闘いから帰還した城の主を迎える犬に恩赦を与えながら、顔を引き締める。
もちろんその心持は、憧れの異性に会う前の乙女のようでもあり、心を満たす何かを狙う猛獣のようでもあり・・・
到底、平静ではいられるはずもなく、中にいた母に迎えられた瞬間、引き締めた顔は即座に崩れ陥ちた。
しかし母はそんな娘の性格をよくわかっているので、何も咎めずにそっと包みをさしだす。
ダンボールに閉ざされた一つの昔話。
無事に読めるかどうかも定かでない、脆い箱から語られる冒険活劇。
母から包みを受け取り、現身を破いて、語る箱に差し込む。

彼女の瞳に、今、物語が始まった。





か が や く も の は ほ し さ え も 、 と う と き も の は い の ち す ら 。

し ん ら ば ん し ょ う た ち ま ち ぬ す む 、

お う ど ろ ぼ う